平成25年度日本建築学会大会(北海道)において、都市計画部門研究懇談会を開催しました。
■都市計画部門 研究懇談会
■タイトル:景観法10年の検証 -市町村景観行政の課題と展望
■日 時:9月1日(日)9:00~12:30
1.主旨説明 浅野 聡(三重大学)
2.主題解説
(1)小樽市の景観行政と歴史的建築物 阿部宏之(小樽市)
(2)羊蹄山麓における広域景観づくり 田村佳愛(北海道)
(3)景観整備機構による景観まちづくりの支援 森川宏剛(京都市景観・まちづくりセンター)
(4)市民・NPOによる景観法の活用 卯月盛夫(早稲田大学)
(5)景観法の課題と展望 小浦久子(大阪大学)
3.討論
4.まとめ
司会 :志村秀明(芝浦工業大学)
副司会 :大影佳史(名城大学)
議事記録 :佐藤宏亮(早稲田大学)
■議事概要
主旨説明
浅野聡主査(三重大学)より、景観法制定10年の節目を迎えるにあたり、次の10年に向けてどのような取り組みをなすべきかについて議論を行ないたいという主旨説明がなされた。
主題解説
1.阿部宏之氏(小樽市)より、小樽運河の整備に始まる景観行政の歩みや、「ふるさとまちづくり寄附条例」を活用した歴史的建造物保全の取り組みなどが紹介された。また、景観計画へ移行したことの成果として踏み込んだ指導ができるようになったこと、屋外広告物条例により独自の基準で景観誘導ができるようになったことが指摘された。
2.田村佳愛氏(北海道)からは、後志地域における廃屋・空き家対策について紹介があった。廃屋・空き家対策は新しい景観課題とも言えるが、既存の法制度では対応が難しいため、廃屋空き家対策モデル条例を作成したり、空き家バンク制度によって廃屋化する前に利活用を図って行く取り組みがなされていることが報告された。
3.森川宏剛氏(京都市景観・まちづくりセンター)からは、景観整備機構の役割や景観まちづくりの取り組みについて報告がなされた。景観整備機構の指定によって市政の中で景観行政の重要性が認識されたことなどが指摘された。また、「京町屋まちづくりファンド」や「京町屋カルテ」などの近年の新しい取り組みについても紹介された。
4.卯月盛夫氏(早稲田大学)は、横浜市、茅ヶ崎市、ミュンヘン市の事例をもとに、定性基準の精緻化よりも早い段階での市民を巻き込んだ事前協議が必要であることを強調した。同時に、景観審議会を行政と市民の中間に位置する専門的な知見を持った組織として有効に機能させていくことや、市民投票のような仕組みも検討していく必要があることを指摘した。
5.小浦久子氏(大阪大学)は、景観法の特徴について、自由度が高いこと、区域全体の空間構造を考えられること、土地利用の変化を一元的に把握できることなどをあげた。そして、計画の多様性のなかから新しい可能性を育てていくことの必要性、景観法が持つマネジメント的な制度運用の仕組みが、将来的な都市計画制度の運用のための試行的役割を果たすことを指摘した。
討議
大野整氏(都市環境研究所)、嘉名光市氏(大阪市立大学)のコメントを口火に、次の10年に取り組むべき課題について討議が行なわれた。廃屋空き家対策など景観法の届出対象とならない新たな景観課題への対応、都市計画制度や地域づくりなど総合的な取り組みの中で景観行政を考える必要性、市民を巻き込んだ事前協議や景観審議会のあり方など、将来的な制度のあり方について議論された。また、多様化する景観計画の運用方法の現状を様々な視点から評価していくことの重要性を確認した。
まとめ
浅野聡主査(前掲)より、人口減少、高齢化、地場産業の衰退など都市が変化していく中で、オープンな議論を行ないながら地域住民が地域を改めて評価していくことが地域づくりやコミュニティ再生につながっていくこと、そのために景観計画の次の10年のあり方について考えていく必要があるとの総括がなされた。